玄関をが開いた瞬間、
60代の女性が『パンツ一枚』で立っていました。
これは今から20年以上前、
僕がサラ金の取り立て担当だった頃の話です。
督促や取り立ての現場では、支払いをめぐるトラブルだけでなく、時には想像もしない方向に事態が転がることがあります。
今回は、僕自身が実際に体験した中でも忘れられない一件を書きます。
延滞の常連、Tさん
その頃の担当客の中に、Tさん(60代・女性)という人がいました。
延滞の常連。
連絡はつかない。
裁判しても払わない。
3か月延滞くらいはいつものこと。
しかも住んでいるのは、会社から片道3時間かかる海辺の町の団地。
訪問するだけで1日が丸ごと消えます。
若手社員の間では他の仕事ができなくなるし、回収の見込みも少ない“鬼門エリア”として語り継がれていた場所でした。
覚悟を決めた、夏の朝
ある夏の日。
上司に背中を押され、僕は初めてTさん宅へ向かいました。
片道3時間。
車を運転して、炎天下の団地を歩く。
玄関の前でひと呼吸ついて、インターホンを押しました。
ガチャッ。
扉が開いた瞬間
目の前に現れたTさんは、Tシャツにパンツ1枚でした。

いきなりのことで僕は笑ってしまいました。

Tさん、ズボン履いてくださいよ!

アンタ誰さ

○○(会社名)です。とにかくズボンを……

なんでアンタの言うこと聞かないかんのさ!このままでいい!
僕が笑ったのが気に入らなかったのだと思うが、Tさんはズボンを履くのを拒否しました。
20代の僕は、その勢いに完全に圧倒されました。
結局そのまま、ズボンなしのTさんと、玄関先で向き合うことになりました。
そのうち払うの謎
気を取り直して、支払いの相談を切り出しました。
すると返ってくるのはいつも同じ言葉。
「ない金は払えない。そのうち払うからいいの!」
自分から支払ったことがありません。
もちろん「そのうち」が来たことは一度もありません。
話していてわかったのですが
Tさんは、テレビの地震速報や津波予報に異常なほど敏感なタイプだったそうです。
そして本気でこう思っていました。
「どうせそのうち津波が来るなら、支払いより遊びに金を使った方がいい」
……ああ。だから「そのうち」なんだ。
妙に納得してしまいました。
事件は突然、起きた
話は堂々巡り。
会話に疲れて、思わずうつむいた、その瞬間。


キャーーー!!!
Tさんが絶叫しました。

な、なんですか??

アンタ、今、私のパンツ見たでしょ!!
いやいやいやいや。

見てないですよ! さっきからズボン履いてってお願いしてるじゃないですか!
その声を聞きつけて、奥から娘さんが飛び出してきた。

お母さんどうしたの?

この人に……パンツ見られた。

え… ズボン脱がされたの?


いや、僕は履いてって言ってます……

じゃあ脱がせてパンツ見られたってこと?
会話が加速度的におかしくなっていく。
Tさんが僕の服装をじっと見つめました。
なにか気づいたように言ってきました。

わかった! アンタ、マ◯◯ンの店員だろ!!

え? なんで?
その時の僕の服装は、スーツの上着を脱いでシャツにベスト。
ちょうどその頃、近所に大手パチンコ店がオープンしたばかりで、店員の制服がよく似たスタイルだったらしい。

サラ金のふりしてお金だまし取ろうとして。
お金がないからって、痴漢しようとしたんでしょ!!

娘さんが畳み掛けた。
完全によくわからないストーリーが出来上がっていました。
ガン。
玄関の扉が、目の前で閉まった。

待ってください、話しを…
警察8人、到着
インターホン越しに罵倒が続きます。
何を言っても来てもらえないし会話になりません。
途方に暮れて団地の廊下に立ち尽くしていると
遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
まさか、と思った次の瞬間。
角を曲がってきたのは、パトカー3台。
降りてきた警察官を、思わず数えた。
1、2、3……8人。

「通報がありましたので、話を聞かせてください」
炎天下の団地の廊下に、警察官8人と僕。
近所の住民がベランダや窓からこちらを見ている。
完全に“事件現場”だった。
別の警察官はTさん宅へ入り、しばらくして戻ってきた。

Tさんは『パチンコ店員に金を取られそうになった』『断ったら痴漢された』と言っていますが、事実ですか?

……違います。 Tさんがパンツのまま出てきて、僕は”ズボン履いてください”とお願いしただけです

……パンツのまま、出てきた?
警察官の表情が一瞬で変わった。
察した顔だった。

詳しくお話を聞きたいので、署まで同行してもらえますか
人生初の、取り調べ室
その後3時間。
会社にも確認を取ってもらい、ようやく解放されました。

Tさんに悪意があったとは思っていません。
ただ、はっきり言えることがあります。
サラ金の現場で30年やっていると、たまに出会うんですが
本当に厄介なのは、
「払えない人」じゃない。
「現実とズレている人」です。
本人の中では、
すべてがつながっています。
パチンコ店員 → 詐欺師 → 痴漢犯。
外から見ればバラバラでも、
その人の中では「事実」になる。
そして一度そうなったら、
もう話は通じない。
この経験から学んだこと
あの日、僕はただ訪問しただけだった。
それでも、
一歩間違えれば加害者になっていたかもしれない。
この仕事は、
お金だけを扱っているわけじゃない。
人の思い込みと、現実のズレ。
それと向き合う仕事です。
20代の僕は、この仕事で”世間の広さ”というものを、骨身に染みて学びました。
あの夏の日の「パンツ事件」は、20年経った今も忘れられません。
家計を立て直したいなら
実は僕自身も、離婚・介護・詐欺で3000万円の借金をしたことがあります。毎月赤字で借金を増やしていく生活を送っていました。
そんな生活から家計を再建した過程や、立て直しの考え方はnoteにまとめています。
「債務整理一択なのか、それとも再建できるのか」を考えたい方は、そちらも参考にしてください。

















ピンポーン。「○○(会社名)です」